第1四半期の終わりが近づきつつある中、米ドルは再度弱気相場に入っている。2月上旬にはNFPの力強い値に支えられて強さが見られたものの、3月には売り手が戻り、それまでの値動きの大部分を帳消しにした。FRBはまだ利上げの手を緩めていないものの、市場はFRBが引き続き銀行への態度を軟化させるとの見通しを継続的に織り込んでいる。また3月初めに発生した銀行セクターでの危機から、利下げというテーマにいっそう注目が集まることになった。
しかしヨーロッパでは、米ドルの強気筋にとっては問題になりうる金利予測が広がっている。欧州中央銀行が昨年フォワードガイダンスを中止したことから、市場は欧州中央銀行からの金利政策に関する示唆や暗示に飛びつくようになっている。またインフレ率が上がり続けていることから、ECBはインフレ緩和の取り組みとしてさらなる利上げの必要性を引き続き示唆している。
こうした政策金利見通しの不一致からユーロが大きく値上がりして、米ドルには打撃を与えた。米ドル指数相場におけるユーロの配分の大きさを考えると、こうした関係は互いにかなり重要な意味を持つ。
以上を踏まえ、第2四半期の米ドルについての問題は2つに分かれる。1つ目は、FOMCの利上げに向けた姿勢の軟化は続くのか、あるいは6月に引き続き利上げの実施を示唆するのか。2つ目はECBがインフレのジレンマを解消するために積極的な利上げを続けるのかどうか。そしておそらくこれらと関係するのが、米国で見られた銀行セクターの危機がヨーロッパで再度表面化するのか、またそれがECBに対して政策金利に対する姿勢の軟化を促すかどうかという点だ。
米ドル指数は2月上旬に100.82の安値をつけたものの、その後は2021年~2022年の主な値動きからの50%リトレースメントにあたる102の水準を保っていた。1週間後に値が戻ってきたことから、ここが引き続き重要な領域になっている。103.82より下では100と99に重要な心理的水準があり、後者は2021-2022年の主要な値動きからの61.8%リトレースメントと合流している。
この値動きの上方には長期的に注目すべき価格帯が存在する。2020年のスイングハイとなった103.00近辺と、2017年のスイングハイとなった103.82近辺は、いずれも第1四半期中に射程に入っていた。その上で重要なのは105近辺で、これは先述のフィボナッチ・リトレースメントの38.2%リトレースメントにあたる。続く105.75は、サポートからレジスタンスに変わったエリアで前四半期の高値を支える役割を担った。
米ドル – DXY日足価格チャート(参照用、Forex.comプラットフォームでは利用できません)。
チャート作成:James Stanley。Tradingviewのデータに基づく。
2023年のユーロは熱い展開となっている。FRBが利上げを実施した一方でECBが金利を据え置きとしたため、昨年の最初の9ヶ月間はこの通貨ペアは値下がりが続いていた。欧州のインフレ率は上昇を続け、ECBは9月下旬にようやく政策を転換した。ここから市場が欧州中央銀行の利上げを織り込み始めたことで、第4四半期にはこの通貨ペアは力強い値上がりを見せた。
2023年第1週は不安定な展開となったものの、ユーロ/米ドルは1.0500ドル付近のサポートラインを維持。サービス業PMIレポートが大きく悪化したことで米ドル安がさらに促進され、ユーロ/米ドルはさらに強気な展開が続き、2月初めには1.1033ドルのレジスタンスラインに到達した。これは昨年2月~9月の安値までの主要な値動きからの76.4%のフィボナッチリトレースメントにあたる。このレジスタンスラインが表面化した後、別のサポートレベルが射程に入るまでの6週間は、大半が売り手主導の相場となった。
3月のECB利上げ決定前後には、売り手が1.0500ドルの水準の下抜けを試す動きが見られた。しかしラガルド総裁がタカ派的なトーンを維持したことから、ユーロ/米ドルはサポートレベルを維持し。一方その1週間後にはFRBのパウエル議長がタカ派的なトーンに与しなかったことから、ユーロ/米ドルの強気筋はチャート上の1.1000ドルに向けて押し戻しを続けることができた。
下の週足チャートでは、1.0500ドル近辺のすぐ上で4週間連続のサポートが試されていることから、まだ大局的には弱気トレンドに入っていない可能性がある。これは現在のファンダメンタルズの背景とも一致しているようだ。ここからユーロ/米ドルの強気筋が、心理的にキリの良い1.1000ドルよりも上の水準で勢いを維持できるかどうかが大きな焦点になる。.2月上旬の反転ローソク足と先週の3月下旬のローソク足から、大きな節目の価格が近づくと強気筋が手仕舞いする傾向が見てとれる。買い手がブレイクアウトを達成できれば、引き続き1.1200ドル付近がフォロースルーのレジスタンスラインとして焦点になるだろう。
短期的なサポートはラインは心理的に1.0750ドル付近となるが、これは先述したのと同じ61.8%フィボナッチリトレースメントにあたる。売り手がどこかの時点で1.0500ドルのラインを割り込むことができれば、1.0350ドル、そして1.0200ドルを再度試す展開が視野に入ってくる。
ユーロ/米ドルの週足チャート
チャート作成:James Stanley。TradingViewでのユーロ/米ドルチャート
「ケーブル」と呼ばれるポンド/米ドルのペアは第1四半期全体を通じてレンジ相場が続いた。3月上旬には値崩れの恐れもあったが、この時期にシリコンバレー銀行破綻のニュースが話題になったことで米ドル安が起こり、価格の下支えに一役買ったと思われる。
にもかかわらず、ポンド/米ドルでは1.2444ドル付近に見られるレンジのレジスタンスラインに向かって値上がりが続いている。12月中旬まで遡ると、この価格水準を試す値動きは2回発生しており、その上には心理的なレジスタンスラインとなる1.2500ドルがある。
強気筋が第2四半期にレンジ相場を抜け出すことができれば、次に注目すべきレジスタンスレベルは、サポートからレジスタンスに変わる1.2675ドルのエリアとなる。弱気筋から見れば、1.1835ドル~1.1850ドル付近がレンジのサポートラインとなり、その後1.1633ドル近辺、続いて心理的にキリのよい1.1500ドルが射程に入るだろう。
ポンド/米ドルの週足チャート
チャート作成:James Stanley。TradingViewでのユーロ/米ドルチャート
DXY相場が示す通り、第1四半期を通して米ドルが弱かったにもかかわらず、米ドル/円は値上がりした。この値動きの少なくとも一部は、もちろん日銀の植田和男新総裁が前任の黒田東彦氏の政策の一部を維持することを見込んだものだ。日銀の政策の見通しは現段階ではまだ不透明だが、他にも重要な要素になっているのが金利の問題だ。
米国の政策金利が昨年を通じて上がったことで、米ドル/円のロングのキャリーコストも上昇していた。連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを続ける中で日銀は低金利を続け、この金利格差が拡大したことで、キャリートレードがフローを支配し、米ドル/円では強力な強気トレンドが形成された。
しかし第4四半期頃には米国の金利の見通しが下がり始め、米ドル/円もその動きに呼応した。米ドル/円は強気トレンドを構築するのに21ヶ月かかったものの、そのトレンドの半分をわずか3ヶ月で帳消しにし、最終的に1月中旬には127.21円のフィボナッチレベルがサポートラインとなった。
2月に米ドルの強さが戻ってくると米ドル/円は値上がりし、やがて138.00円のすぐ下にレジスタンスラインが現れ、3月の大半は130円の水準に入るまで売り手が主導権を握っていた。その後の130円からの反転は、現在のところ133.09円付近でレジスタンスラインが合流する重要なエリアで維持されている。 この水準は、2021~2022年の強気相場の38.2%のリトレースメント、さらに10月~1月の売り展開からの23.6%リトレースメントにあたる。今週は下げを帳消しにする値上がりが見られており、この動きが確定すれば第2四半期には強気相場が継続する可能性がある。
次の四半期に向けて大きな焦点となるのが金利だ。 米国の金利が引き下げられる場合、キャリートレードのさらなる巻き戻しが見られることから、ファンダメンタルズの面では米ドル/円の動きは引き続き弱気なものになるだろう。135円付近、その後は138.00円の水準がレジスタンスラインになる可能性がある。130円の下では127.21円のスポットが目を惹く。売り手がここを割り込めば、キャリートレードの巻き戻しによって下落が加速する可能性がある。もしそうなれば125円を試すか、あるいは121.50円付近のフィボナッチレベルまで値下がりする可能性がある。
米ドル/円の週足チャート
チャート作成:James Stanley。TradingViewでのUSD/JPYチャート
— 文責:シニアストラテジスト、James Stanley
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