データというものは、必ずしも市場の価格に直接的かつ論理的な影響を与えるとは限らない。先週はそう述べることが多かったように思う。しかし先週金曜の米ドルの動きを受け、それまで強気だったにもかかわらず、また非農業部門雇用者数の統計が非常に強い内容だったにもかかわらず、なぜ米ドルが売り展開になったのかという疑問の声が上がり始めた。
この予想外の変化の理由は、価格を押し上げるのはデータではなく、買い手と売り手であるという事実だ。たしかに多くの場合、買い手も売り手もデータに反応し、それを受けて価格を決めている。ただし、データを差し引いて考える余地のある状況や異常値シナリオがあると、市場参加者の動態は複雑になり、結果的に個人トレーダーをいらだたせることになる。米ドルを例にとれば、先週まで11週連続で上昇していた。これは非常にまれなことで、過去10年間で今回以外には1度しか発生していない。2014年9月にそれが起きたときには、連騰の終わりに2週間の停滞があり、その後6ヶ月間ドル高が続いた。これは極端なトレンドで、米ドルはこのときに合計で25%以上上昇した。
これが市場の動きだが、しかしひとつのサンプルにすぎない。そのため、このたった一つのシナリオが今回も同じように展開すると考えるのは非常に危険だ。
ただ…米ドルのような重要な資産がこれほど一貫して上昇を続けているというのは、たしかに強調していいことではある。連騰が始まってからここ12週間、米国債金利のほぼ放物線状の上昇や株価の反転といった、明らかに奇妙な状況が現れ始めているのも事実だ。
ちょうど1週間前、金、ユーロ/米ドル、SPXの日足チャートでRSIが売られ過ぎを示していた。これは米ドルの極端な強さと軌を一にしている。
話をNFPに戻そう。このレポートが金曜日に発表されたとき、米ドルは前週の火曜日に高値をつけた後ですでにプルバックに入っていた。この時の高値は107.20で、これは本当に極端な買われすぎのケースであるように思えた。市場は信じられないほど一方的になっており、ポジティブなデータでさえ、市場に新たな強気筋を引き込むことができなかったのだ。
これが今週前半の米ドル相場で見られた状況で、合わせてユーロ/米ドルは1.0500ドルの心理レベルで失速した。筆者は前週のWebセミナーでかなりの時間を割いてこの話をし、このような状況がプルバックのシナリオにつながる可能性を語っていたので、売られ過ぎのトレンドから揺り戻しが来るのは妥当であるように思われた。NFPが発表された金曜日、ユーロ/米ドルは安値の上昇を続け、今週も米ドルのプルバックの動きが続いた。
今朝のCPI発表に向けて、ユーロ/米ドルは、チャート上のレジスタンスラインとの合流地点を維持していた。1.0636レベルは、2020年3月にパンデミックがテーマとなっていた時の安値であり、今年の5月31日にサポートとなったことから、注目に値する。今朝の価格は7月以来の高値を維持している弱気トレンドラインとも合流した。
ユーロ/米ドル週足チャート
チャート作成:James Stanley、Tradingviewのユーロ/米ドル
上の週足チャートからは、もう1つの注目すべき要素が見て取れる。1.0500ドルのサポートラインだ。
この1.0500付近のゾーンは、今年の最初の週にサポートとして機能していたため、今年に入ってからユーロ/米ドルにおいて重要なアイテムとなっている。しばらくこのゾーンが視野に入ることはなかったが、数週間前の反発に一役買い、先週を通じてこの水準での取引が続いていた。しかしこの水準で価格が大台を割り込むと、売り手の勢いが鈍りはじめ、下降トレンドを牽引するために新たな売り手を引き込むことが難しくなった。
これがもとになって反発につながった。まず下落の失速から始まって、その後価格は上昇に転じ、過去のサポートラインであったレジスタンスを試す展開となった。昨日でさえ安値と高値の上昇が続き、強気筋は勝機を維持していたのだ。しかし、今日の反応を見る限り、弱気筋が1.0500ドルを下抜けして下落を維持できる立ち位置にあるかどうかを見極める必要がありそうだ。
以下の日足チャートからは、今日の価格レンジがすでに100ピップスを超えていることから、この動きがどれほど力強いものになっているかが見て取れる。.
ユーロ/米ドル日足チャート
チャート作成:James Stanley、Tradingviewのユーロ/米ドル
トレンド、サポートとレジスタンス、そしてセンチメントはすべて、トレーダーにとって重要な役割を果たす。センチメントの部分については、必ずしも人々が望む、あるいは考える形でデータが市場に反映されるわけではないことを説明する理由として、この記事の冒頭ですでに触れた。サポートラインとレジスタンスラインが重要な理由はいくつもあるが、中でも特に重要なのはリスク管理だ。
トレンドが重要なのは、将来が不確実だからである。トレンドの存在には多くの場合理由があり、トレンドが特定できれば、それを戦略に取り入れることができる。トレンドは継続する可能性があり、トレーダーはトレンドによって「もしこうなったら、この行動を取る」という型を決めて動き、リスク管理を意思決定プロセスの一部とすることができる。サポートとレジスタンスもおそらくここに関係するだろう。
ここでの問題は、ユーロ/米ドルのトレンドと米ドルのトレンドが、まだ1.0500ドル付近のスイングローのサポートに非常に近い位置にとどまっていることだ。ユーロ/米ドルは、わずか1週間のプルバックで、それ以前の売りの23.6%をリトレースできたに過ぎない。これは弱気トレンドの継続につながるに足る動きだろうか?それとも単なる罠にすぎず、1.0500ドルに近づいたり、下回ったりするにつれて、売り手の供給が枯渇するだろうか。
ここで懸念されるのは、1.0500ドルを割り込む動きの背景となっている、依然として売られ過ぎに近い状況だ。心理レベルは人間の行動を変化させる可能性があるため(それゆえ「心理的」という言葉がある)、サポートやレジスタンスの重要なポイントである。ここでは先週ユーロ/米ドルで見られたように、底値やサポートの形成につながりうる地点だ。
というわけでここでの問題は、1.0500ドルを割り込んで下降を続けるほど強いトレンドになるかどうかだ。そのためには、より多くの売り手を引きつける必要があり、おそらく今朝発表された消費者物価指数CPIはその目的を達成するのに十分だろう。とはいえ、すでに強い押し目買いが入っているため、安値追いは危険かもしれない。
ただしトレンドの継続が確認された場合、ここが高値の下落に対応するレジスタンスラインになる可能性がある。下の4時間足チャートからは、同じ1.0611~1.0636ドルのゾーンが依然として頭上にある。途中、1.0582ドルで短いスイングがあったが、ここを1.0568ドルのフィボナッチレベルにつなげると、より積極的なスタンスで追跡できるゾーンが見えてくる。
ユーロ/米ドル4時間足チャート
チャート作成:James Stanley、Tradingview
さらに短期の2時間足チャートを見てみよう。弱気筋にとって難しいのは依然としてサポートで、プルバックが始まる前に安値の上昇が重なっており、これらのポイントはどれもそれぞれ強気筋が参入しうるポイント、あるいは弱気の勢いが失速しうるエリアだ。
新たな安値に向かう途中のサポートレベルは、1.0520ドル、1.0500ドル、1.0488ドル、そして現在の2023年最安値である1.0448ドルだ。弱気筋がこの最後のレベルを試すことができれば、あとは1.0350ドル近辺に長期的なシナリオを描く上で注目すべき合流地点がある。
ユーロ/米ドル2時間足チャート
チャート作成:James Stanley、Tradingviewのユーロ/米ドル
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