フィッチによる米国信用格付けの引き下げが市場のリスクオフ反応を引き起こし、ドルと長期債利回りが急上昇した後、市場はFRBの政策に再度焦点を当て、金曜には米国の雇用統計に大きな注目が集まることになるだろう。雇用統計が予想から大きく外れた場合には、米ドル、金、ユーロ/米ドルの見通しが影響を受ける可能性がある。
雇用統計はほぼ常に重要なものだが、今回は特に注目を集めるだろう。米国の金融政策の引き締め水準はもう充分であり、9月に行われる次の金利決定は完全にデータ次第になるとパウエル議長が明言していることから、CPIより1週間早くこの金曜に発表される雇用データはFRBの政策に影響を与えるものになる。9月の会合までは、今回を含め、あと2つのインフレデータといくつかの雇用データの発表が控えている。雇用市場は依然として非常に好調である中、焦点は明らかにインフレ率に集まるが、もし雇用データに陰りが見られれば、金利据え置きの観測が強まる可能性がある。しかしFRBは次の金融政策を決定するためにデータを注視していることから、ふたたび驚くほどの強い雇用統計が出れば、FRBの追加利上げの脅威は残るだろう。
今週発表された先行指標の結果はどちらともつかないもので、ADP民間部門雇用者数は好調だったものの、ISMサービス業および製造業PMIの雇用部門はともに低調だった。
NFP前の雇用に関する先行指標は、全体としてはほぼ予想通りとなってはいる。しかし最近の非農業部門雇用者数の推移を見ると、一貫して予想を上回る結果が出ているもののの、最近はその後下方修正されるか、6月報告の場合は予想を下回っている。
NFPを検討する場合は、全体像を踏まえて平均時給を考慮に入れることが重要だ。賃金という点では、2023年4月、5月、6月の平均時給は前年比4.4%増となっている。これは賃金の上昇が依然として堅調であることを示しており、FRBにとっては懸念材料だ。特にサービス業で顕著にみられ、ISMサービスPMIの支払物価指数の上昇によっても強調されている。雇用統計の総合値が多少予想を下回ったとしても、賃金上昇のデータが出れば、米ドル上昇の材料となるだろう。
今週ここまでのドル高のさらなる進行は、予想通りだったFRBの政策決定とは何の関係もない。米国債券市場、特にロングサイドでの売りが大きく関係している。これはフィッチによる米国債の格下げが引き金となったもので、投資家が国債保有に伴うリスクの増大に対してより多くの金額を要求するようになったためだ。米国債のデフォルトは考えられないが、将来のどこかの時点で起こる可能性はある。そのため短期的には米国債利回りがさらに上昇する可能性は否定できない。来週の1030億ドルの債券入札は興味深い動きで、投資家の国債保有意欲についてさまざまな材料が明らかになるだろう。以上を踏まえた上で、現在ではドルが調整に入る可能性が高く、状況が落ち着けば、また金曜の雇用統計が予想を下回った場合には、投資家はすぐに米ドルを売り始める可能性がある。
雇用統計が出た後は、投資家の関心は来週に予定されているインフレデータに向かうだろう。すでに述べたように賃金データは雇用統計の中で発表されるが、重要なのは来週木曜に発表される消費者物価指数(CPI)。米国のインフレ率はこのところ急低下しており、過去4ヵ月はいずれも予想を下回っている。前年比CPIは年初の約6.5%から6月にはわずか3.0%まで低下し、政策金利は今がピークとなる可能性も高まっている。
9月のFRBの政策決定は完全にデータ次第となる。その前に、今後もう1回インフレと雇用統計の発表が予定されている。CPIがさらに低下すれば、政策金利据え置きの観測がさらに強まる可能性がある。
雇用統計や賃金統計が下振れした場合には、金やユーロ/米ドルではロングを検討するのが望ましい。一方データが好調の場合には米ドル/スイスフランの魅力が大幅に上がるだろう。株式市場の投資家が期待するのは、利上げを正当化するほどは高くなく、景気後退の警鐘を鳴らすほどには低くないという塩梅のデータだろう。
出典: TradingView.com
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