世界の株価動向を占ううえで、米国の中央銀行であるFRB(The Federal Reserve Boardの略フェデラル・リザーブ・ボード:連邦準備制度)の金融政策は非常に重要です。過去の歴史を見ても、FRBは金融市場の番人として経済活動を調整してきました。景気が過熱しインフレ懸念が出てくると金融引き締めを行い、経済活動を落ち着かせてきました。逆に、経済動向が減速し、経済危機になってくると金融緩和つまり政策金利を下げて経済成長を促してきました。
世界の株価動向を占ううえで、米国の中央銀行であるFRB(The Federal Reserve Boardの略フェデラル・リザーブ・ボード:連邦準備制度)の金融政策は非常に重要です。過去の歴史を見ても、FRBは金融市場の番人として経済活動を調整してきました。景気が過熱しインフレ懸念が出てくると金融引き締めを行い、経済活動を落ち着かせてきました。逆に、経済動向が減速し、経済危機になってくると金融緩和つまり政策金利を下げて経済成長を促してきました。
FRBの金融政策はアメリカのみならず、世界中の景気、ひいては株価に影響を与えます。最近、約20年間特にそうですが、日本株の動きはほぼ前日のアメリカ株に追随しています。アメリカ株だけでなく、日本株や新興国株に投資している人にとっても非常に大切なポイントです。2022年以降FRBはインフレを抑えるべく利上げをして金融引き締めを行っています。おかげで、アメリカ株はだいぶん調整してきたという点は大切です。
しかし、過去の利上げ局面と比較すると、まだまだ高水準高値圏内で推移しているということができます。世界のエコノミストやアナリストは自身の職を危うくする株価下落については言及しにくいという事実は忘れないでください。また、個別企業名を出して経済危機が迫っているなどという発言をすると、訴えられる可能性さえあります。ただ、大事な点ですが、現時点ではFRBの利上げ局面は最終局面に近づいているということです。この後は、引き上げた短期金利を高値で維持することになります。下図では、黄色の枠が金融引き締め期間です。
出所:FRB St.Louis(FRED)データ、multpl.comのデータをもとに筆者が作成。7月末時点、S&P500については、8月18日の数字。
同様に、上記グラフに長期金利(10年)も加えてみましょう。
出所:FRB St.Loius(FRED)データ、multpl.comのデータをもとに筆者が作成。7月末時点、S&P500については、8月18日の数字。
こうして見ると、過去FRBの金融引き締め後には、バリュエーション(PER)の調整も伴い、株価は大きく下落しました。FRBはインフレを抑えるべく、金融引き締めを行っているので明らかに株式市場にとってはよくない状況です。
FRBが政策金利である短期金利を利上げしていくと一般的には、長期金利も上昇することになります。株式のバリュエーションを分析するうえで、長期金利(米国10年債金利)は非常に大切です。米国債はリスクフリー金利として認識されています。機関投資家が株式の評価をする際に、長期金利を使って割り引いて計算します。
長期金利が上昇するとそれだけ株価の現在価値が下がることを意味し、株価の評価においても大きな役割をしています。長期金利が上がれば、株価の評価も下がるということです。過去の長期金利上昇局では、株価は下落(調整)しています。青色の丸オレンジ枠で囲んだ部分です。
出所:FRB St.Loius(FRED)データをもとに筆者が作成。7月末時点、S&P500については、8月18日の数字。
上記グラフでは、長期金利上昇期(橙枠)後には、株価は大きく下落しています。
株価を見るときには、様々なテクニカル分析がありますが、多くの機関投資家が注目している分析手法がボリンジャーバンドです。米系証券のアナリストと話すとよく出てきます。多くの機関投資家は長期投資家です。年金基金や生命保険会社の資金運用者だけでなく、ミューチュアル・ファンドの運用担当者もよく使っているようです。
テクニカル分析を行ううえでは、多くのに人が使っているものを使わなくては意味がありません。ボリンジャーバンドでは、200日の3σ(シグマ)を使います。年単位の資金運用をするうえで、200日(約1年間)はよく用いられる数字です。3σということは、通常に考えられる想定範囲のリスクのことで、3σ以上の偏差(ブレ)は想定できない異常事態ということができます。機関投資家の運用担当者は、こうした事象を想定しないで運用しています。
逆の言い方をすれば、こうした事象(3σを超える事象)を割り込んだ際には、中央銀行なり政府が救済に動き始めるということです。本当の買い場は、この3σにあるわけです。
今現在、S&P500株価指数は、8月になって調整が入り、ボリンジャーバンド分析(200日)では、ちょうど+1σのところまで売られてきました。まだちょっと割高というところでしょうか。
ちなみに昨年6月には、下の3σに到達していました。このチャートは簡単に各種トレーディング情報のページでも見ることができます。(TradingView、Yahoo.com/financeなど)過去を振り返ってもこのバンドで動いています。皆さんも確かめてみるのもいいでしょう。
出所:FOREX.com 11月28日時点
取得時間:23年11月29日 am6:47
アトランタに所在するFRBはFRBの適正金利レベルをテイラー・ルールという法則に基づいて公表しています。アトランタ連銀以外にも、クリーブランド連銀も似たような指標を発表しています。このテイラー・ルールに基づいた短期金利レベルは、約6.6%とされています。今はまだ、5.0~5.25%ですからあと少しということが言えます。
出所:アトランタ連銀 テイラールールより
8月20日7:00時点
FRBの使命はインフレを抑えることと雇用の最大化を図ることです。そのために、インフレを抑えるためにこれまで利上げしてきました。つまり資産価格とサービスの価格などを低く抑えたいということです。この価格には、あらゆる資産価格が含まれ、株価や不動産価格も大きな要因です。FRBは公には、インフレ指標として消費者物価を使っていますが、当然、インフレ指標に直接影響する商品価格だけでなく、株や不動産価格も重要な要因ということです。
何が言いたいかというと、FRBのメンバーはこれだけ利上げをしてきたのに、資産価格の上昇スピードが落ちていないことを心配しているわけです。
逆説的な言い方をすると、資産の価格の伸びをFRBのインフレ・ターゲットである2%に長期的に抑えたいということです。今年に入ってからの株式市場全体は価格が上昇しています。S&P500株価指数は、8月に入って調整しているものの、+14%、ナスダック100株式指数(先物が上場している)は+35%上昇しています。“金融引き締めをしているのに株価が上昇している。” FRBにとっては、あまり好ましい状況ではありません。
7月末に行われたFOMC(FRBの金融政策会合:連邦公開市場委員会)の議事録を細かく読んでも、資産価格についての分析が多く行われていたようです。今のところ、資産価格への大きな脅威は見当たらないようですが注視していくのでしょう。だから、データ次第と言っているのです。資産価格が落ち着かない限りは、金融引き締めスタンス(利上げor高金利維持、FRBの保有している資産(国債・MBS)の売却)を続けるのでしょう。
よく不動産市場を引き合いに出す場合、ほとんどの情報が住宅に関する指標に偏っています。しかし、本当に重要なのは、商業用不動産市場です。特に今年は、商業用不動産が注目されています。
2022年、2023年年初来パフォーマンス比較
S&P500株価指数 |
ナスダック100指数 |
ダウ工業株指数 |
REIT* |
|
23年年初来 |
19.5% |
44.0% |
7.0% |
5.3% |
2022年 |
-19.4% |
-33.0% |
-8.8% |
-25.1% |
2023年7月末時点
*注:FTSE Nareit All REITs Index。 出所はNAREIT.com。
コロナのパンデミック以降の金融緩和で、住宅だけでなく商業用不動産の価格も大きく上昇しました。しかし、在宅勤務が増えたことで、企業は借りていたオフィスをすさまじいペースで、返却しています。つまり、オフィスの空室率が上昇して高止まっているのです。それなのに、オフィスビルの価格は下がる気配がありません。
実は大手PEファンドなどが潤沢な資金(投資家が解約できない投資資金)を元手に、下がってきたところの優良物件を購入しているからです。2022年に、上場しているREITの株価は、25~27%下落*しました。しかし、多くの非上場不動産ファンドの価格は、+5%以上価格が上昇していました。市場が想定する価格が反映される上場REITと違い、非上場の私募不動産投信は、市場価格が反映されていません。自身による時価評価(最近購入した物件では簿価の場合も)によるからです。
最近銀行による商業用不動産への貸出しについては、審査が厳格化しているようですが、商業用不動産への貸付けは、銀行以外にもノンバンク(不動産ファンド)も多くなっています。このあたりが震源になる可能性もあります。参考までに商業用不動産への業種別貸付け状況のグラフを添付します。リーマンショックの後は、総額の融資全体がマイナスになっていました。
*注:REITインデックスによって違う
出所:FRB Z1 reportより筆者が作成
注:第2四半期のデータは、9月上旬(8~10日?)に更新されます。
2023年8月に入ってから、フィッチという格付け会社が米国をAAAからAA+に格下げしました。また米金融機関についても格下げしました。金利は上昇し、ハイテク株を中心に株価は下落しています。米国金利は明らかに上昇傾向となっています。金利の上昇は株価に悪い影響を与えます。超長期の年金基金などのような投資家は、米長期金利が4%を超えてくると、リスクの大きい株式投資よりも、リスクフリーの米国債を選好する傾向があります。つまり新規に株式投資をしなくなることになります。
今米国株を支えているのは、ウォールストリートや個人の投機筋になります。今年に入ってから特に顕著ですが、決算発表後の株価は過去の業績にはあまり反応を見せず、ガイダンス(業績見通し)にだけ反応しているようです。
また、今年になって上昇しているのは一部の大型ハイテク株に集中しています。特に生成AI関連の銘柄の上昇は特筆すべきものです。ちなみにナスダック100をトラックするInvesco QQQ Trust Series 1(QQQ)*は年初来35%上昇しています。QQQの場合、AI関連銘柄だけで、約60%構成されています。こうした状況は明らかに好ましくはないと思っています。*注:8月18日時点。
2023年の9月は、持つかもしれませんが、生成AIへの投資ブームも終了しつつあります。第2四半期(6月末)の決算発表を見る限り、AI関連銘柄以外の多くの銘柄はあまり芳しくないパフォーマンスとなっています。生成AI関連銘柄でも、ガイダンスがよくなければ、大きく下落する銘柄が見受けられるようになりました。
特に年初来大きく株価が上昇した銘柄こそ、2023年の利益を確定させるために早々に売却に動くファンドや個人投資家が出てくると予想されます。
特に第3四半期の決算発表が予定されている10月末から11月中旬までは要注意時期です。また、多くのヘッジファンドは、解約の申し込みを45日前に締め切ります。12月末で解約しようとした場合、10月初旬には、解約請求を行います。解約請求を受けたファンドは、解約に対応する現金を用意するために保有資産の売却に動きます。HFRが算出するマクロ・ヘッジファンド・インデックス(HFRI 500 Macro Index*)は2022年には、14.4%上昇しましたが、2023年の年初6か月間には、-0.9%とあまり芳しくないパフォーマンスとなっています。
*出所:HFR 2023年6月末時点
FRBの声明では、今後の金融政策変更はデータ次第と言っていますが、マーケット次第と解釈したほうがいいでしょう。基本的にパウエル議長は、市場の予想通りにしか動いたことがありません。証券会社出身とはいえ本職は弁護士ですから、金融市場については誘導しようというよりは監督するというスタンスに感じられます。
金融市場には現在圧力が大きくかかっています。しかし、FRBからそうした危機をあおるような発信はできません。危機が起こったら、それに対処するでしょう。
CME FedWatch Tool
出所:CME 2023年8月18日時点(8/18クローズ)
もっとも予想されている金利レベルをグラフにしました。
注:加重平均は予想値の分布を加重平均したもの、予想値は最も確率の高いターゲットをプロット。
出所:CME FedWatch Toolより 23/8/20(8/18クローズ時点)作成
2024年 株価指数の想定
S&P500株価指数
8月18日05:15PM EDT時点14,694.84
2023年年内の想定範囲
3,500~4,600
2024年の想定範囲
3,500~5,000 (下落後の底値から35%以上上昇を想定)
出所:Forex.com
時点:23/12/1 3:29AM
ナスダック100指数
8月18日05:15PM EDT時点14,694.84
2023年年内の想定範囲
10,000~16,500
2024年の想定範囲
10,000~24,000 (下落後の底値から50%以上上昇を想定)
出所:Forex.com
時点:23/12/1 03:26AM
トレーディングを行う場合には、ボラティリティが高まると予想されるため、収益チャンスは大きくなります。その分リスクも大きくなるので、注意は必要です。市場環境からみると、米国株のトレーディングを行う場合、S&P500株価指数(先物/CFDもあり)よりもナスダック100株式指数(先物/CFDもあり)が中心になっていくと思われます。
ナスダック100株式指数の場合、生成AI関連銘柄の構成が60%以上です。非常にボラティリティが高くなっています。S&P500株価指数とナスダック100株式指数の想定範囲は上記の通りです。
前の記事:
次の記事: